Act.1.5 青い瞳は地面を見つめる エピローグ2 ⑨
※本作は連載小説です
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***
そういう訳で、私は今、バス停にいる。
里奈さんの都合を聞いて、自宅にいる時間にお邪魔した帰りである。
一度訪問した家だから、問題なく行き着いた。
ただ今回は、黒猫、名前は ”プシー” が、共にいる。
「なんで、あんた付いてきたのよ。」
ベンチの隣で座っている黒猫に話かける。
だが、奴は知らん顔。
私は、プシーが付いてきていることに気が付かなかった。
バスの中に足を踏み入れた時に、スルリと足元をすり抜けて乗り込んで来たのだ。
慌てて、持っていた白雪のケージに押し込んだ。
プシーは不満そうな顔をしていたけれど、そこは妥協したみたい。
大人しくしていた。
そんなことがあったけれど、無事、里奈さんに会うことができた。
そこで、先日の報奨金のお礼を、
”とてつもない大感謝”の気持ちを込めて、
”丁寧に再度”、お伝えした。
(あなたは命の恩人です。おかげでキムチコーヒー生活から抜け出せます。)
とかは、
言葉にしてないけど。
そして、借りていた白雪のぬいぐるみと猫ケージを差し出した。
なのに、側にいるプシーを見て、
「猫ケージは貰ってください。」と、言われてしまった。
白雪はもういないから…。
探偵さんが貰ってくれたら、白雪が喜ぶ。
そう言われて、断れなかった。
(もう、いないから…。)
可愛がっていた愛猫の思い出が詰まっている物なのに…。
「もう!あんたがいたからだよ。」
私はプシーに文句を言った。
プシーは、里奈さんの自宅についた時に外へ出していた。
その後は、貰ったケージの中に入ろうとしない。
バスが来たら入ってくれよ、と、願いながら、
バス停のベンチで、並んで座っている。
青い空。今日はいい天気。
まだ肌寒い日が続く中、比較的気温の高い日中だった。
ただ、風が強い日だった。
髪が風に煽られるたびに、手櫛で整える。
(そういえば、やっぱり金色の目だと、はっきり言っていたな。)
私はため息を付きながら、手で髪を掻き上げて空を見上げた。
念の為、もう一度里奈さんに確認したのだ。
この猫の瞳の色が、何色に見えているのか。
——え? 金色ですよね?
なんでそんな事を聞くのか?というように、不思議そうな顔をされた。
でも…。
今も、私には青い瞳に見えるのだ。
その時。
バサバサバサ…。
と、音を立てて、何かが私の顔に張り付いた。
「ぶっ!なに?」
私は慌てて顔からその物体を引き剥がした。
見るとそれは一枚の写真。
A4くらいの大判に引き伸ばされた写真だった。
モノクロの写真で、神秘的な湖と思しき風景が写っている。

「すみませーん。」
遠くから、男性が腕を振りながら走ってきた。
どうやら、私に声をかけているようで…。
「それ、僕のです。申し訳ありません。」
私の顔に張り付いた写真を指さし言った。
年齢は30歳は超えているように見える。
若くは見えるが、どこか落ち着いた雰囲気がある。
肩に大判の書類ケースを下げて、首からは大きなカメラを吊り下げていた。
どうやら持っていた封筒が風に飛ばされて、中身が飛び散ったらしい。
拾い集めていた最中のようだ。
「…どうぞ。」
私は、素直に写真を渡した。
彼が手にしている他の書類も写真のようだ。
全てモノクロ。白黒で撮影されている風景写真。
モノクロなのに水滴の粒までわかる、風景に入り込めそうな表現力のある写真だった。
「ああ、申し訳ない。風に飛ばされてしまって…。」
「そのようですね。大丈夫ですか?」
私は愛想笑いで答えた。
「はい、いや、多分。」
——ははは…。
彼は自分の頬を掻きながら、苦笑いを浮かべた。
「素敵な写真ですね?ご自分で撮られたのですか?」
「あ、はい。写真家でして、これから入稿なのに、全部揃っているか確認しないと…。」
そういうと、自らを写真家と名乗った男性は、手に持っている写真の数を数えだした。
ちょうどその時、待っていたバスが見えた。
「プシー。」
ケージに入ってちょうだい。
そう言って、ケージの入口を開いた。
でも、プシーはガン無視。
こうなる気がしていたよ!
「こら!入りなさい。事務所に帰るよ!」
ところがベンチからスルリと降りると、男性の足元に擦り寄って行った。
写真家の男は、一瞬目をくるりと丸くしたが、すぐ相好を崩して笑顔になった。
「やあ、人懐っこい猫さんだね。バスに乗るんでしょ。カゴに入らないと乗せてもらえないよ。」
そうして、プシーを持ち上げてケージの中に入れてくれた。
「あ、ありがとうございます。」
私は、プシーを捕まえてくれた事にお礼を言った。
そして、ちょうど目の前で停車したバスに乗り込む。
だが⋯。
バスに乗り込んだ時、後ろから聞こえた言葉に愕然とした。
「どういたしまして。こちらこそ写真ありがとう。
バイバイ、可愛らしい青い瞳の黒猫ちゃん。」
(!?)
「ちょっ!」
私は慌てて振り返った。
そして、手を伸ばして、男性を引き留めようとした。
でも、無常にも目の前で、バスの扉が閉まってしまった。
そのまま、走り出すバス。
私は空に浮かぶ自分の腕をそのままに、後ろに下がっていく男性の姿を目で追った。
(いま、あの男はなんて言った…?)
——青い瞳の黒猫ちゃん…
私はただ呆然と、バスの中で立ち尽くしていた。
*****
青い瞳は虚空を見つめる
Act1.5 Epilogue 完
next story:Act.2 青い瞳は水面(みなも)を見つめる
近日公開 ・・・予定

Act.2「青い瞳は水面(みなも)を見つめる」へ続く。視線の先は水面へ変わる。かな?⋯現在制作中です。
coming soon ☆彡

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