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連載小説|第八回目|青い瞳は虚空を見つめる

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Act.1.5 青い瞳は地面を見つめる エピローグ ⑧

※この物語は連載小説です。こちらは第八話となります。
前回 第七話はこちらから👉️【第七話:青い瞳は虚空を見つめる】
   第六話はこちらから👉️【第六話:青い瞳は虚空を見つめる】
   第五話はこちらから👉️【第五話:青い瞳は虚空を見つめる】
   第四話はこちらから👉️【第四話:青い瞳は虚空を見つめる】
   第三話はこちらから👉️【第三話:青い瞳は虚空を見つめる】
   第二話はこちらから👉️【第二話:青い瞳は虚空を見つめる】
   第一話はこちらから👉️【第一話:青い瞳は虚空を見つめる】

*****

私は今、バス停の前のベンチで、黒猫と並んで座っている。

この黒猫は、現在、我が ”神崎探偵事務所” で
マスコット・キャラとして働いているのである。

………。

どうしてこうなった。

illustration:Niji・journey

***

あの後。

黒猫が事務所に侵入してきた日。

そう、独立開業後、初めての依頼人として来た ”西野原 里奈” さん。
彼女が、事務所に事件解決(?)のお礼と報告に来てくれた日に、突然事務所に侵入してきた黒猫。

この猫は、私が里奈さんの大事なペット ”白雪” を探していた時に偶然出会った、私だけが青い瞳・・・に見える黒猫なのだ。

ここ、
大事な点なので、もう一度言っておく。

「私だけが、青い瞳に見える」黒猫。

他の人には、金色の瞳に見えているらしい。

そんなことある?
って、いまだに自分の目が信じられない。

というか、みんなで私を弄んでいるんじゃなかろうか?

ケットなら、やる。

ケット(KET)とは、元旦那が利用していたAI(人工知能)で、離婚の慰謝料の一貫としてコンピューターごと奪ってきた。

いまは、事務処理全般を任せている。

設計とか、設定とか、詳しい事は知らないが、ちょっと皮肉っぽい言動が目立つ。そしてオカンである。
その辺、元腹黒旦那のアシスタントだっただけのことはある。

しかし猫の写真画像の解析結果まで、誤魔化す必要がないのよね。
何より、里奈さんが嘘を付く必要がない。

一度医者に行こうか真剣に悩んだわ。

ケットの奴が、ためらわず精神分析科を紹介したので、ブチ切れて止めたけど。

眼科とか、脳神経外科とかだろ。普通。

私は、当時の事を思い出して、怒りを再燃させたのだった。


***


「ちょっと、その封筒から手を離しなさいよ!」

来客用のローテーブルの上にドンと座り、里奈さんが置いていった報奨金の入った封筒に前足を乗せている黒猫に向かって、怒鳴ってみた。

黒猫は青い瞳を細め、チラッと、ソファーにある”ちゅ~るん”に目を向ける。

これって、
(開けろ。)
って、言ってるよね?

どう考えても。

この黒猫。
かなり頭が良い。
人の話を理解しているみたいだ。

そもそも、あの時、あの公園で…。
まるで私の言葉を理解して、案内するかのように雑木林の中へ歩いて行った。
あの遺体を発見できたのは、この黒猫のおかげだとも言えるだろう。

(うむむ。)

私は、腕を組み考えを改めた。

まあ、確かに、お礼として”ちゅ~るん”をあげてもいいかな?
誠意ある人としての対応を考えるとさ。

そこで、事務所の給湯室から小さな小皿を持ってきた。
その中に”ちゅ~るん”を入れてやる。

そして、できるだけ事務所の扉近くに小皿を置く。

食べたら、出ていけ。
という、意思表示。
扉を開けておいた。

黒猫は、今度は大人しくテーブルから降りた。
小皿に近づき匂いを嗅ぐ。

そうして、ペロペロとピンクの舌で舐めはじめた。

「食べたら出て行ってね。不思議猫ちゃん。」

私はホッとして、封筒を取り返す。
中身を取り出す。

(お、おお~!)

当初取り交わした成功報酬の5倍近い金額が入っていた。
本来だったら貰うはずの、着手金を含めたとしても、倍以上だわ。

これは!

(コーヒー買ってこよー♡)

『…知奈。』

モニターから、事務的な声が響いた。
ケットだ。

『金額の報告をお願いします。
 経費の計算と、報酬金額の追加により、契約書の改定をします。顧客に新しい契約書のサインと領収書を渡してきてください。』
「え、ええ~。領収書だけ郵送すればいいでしょ?」
『いけません。収支を偽れば脱税になり営業できなくなりますよ。』

もう、ほんと、堅苦しいんだから。
私は渋々パソコンに向かった。

『今回の経費は、公共交通機関の利用料に、”ちゅ~るん”の購入費用だけで良いですか?』
「うん。まあ、”ちゅ~るん”は白雪に関係なかったけど…。」

ちらり。

黒猫に目をやる。

こいつ。

すっかり食べ終わったのに、出ていくどころか、ソファーに戻って寛いでやがる。

『では、経費分は報酬金額から差し引いて、残った分を正式な報酬額とします。それでも、随分な利益です。ペット探しの割には。ですが。』

『殺人事件となると、話は変わりますからね。』

ケットが続けた。

『それで、その猫はどうするのですか?』

(どうする?どうすると言われても…。)

追い出せば良いんだろうけど、こいつ、絶対戻って来る気がする。
何ていうか、自分の意思でなければテコでも動かない感じなんだよね。
部屋から追い出しても、入口付近に居座りそうだ。

「ちょっと、クロネコ!」

私は、話合うことにしてみた。

だって、こいつ、人の話が分かるみたいなんだもん。

「あんた、ほんとに何者なのよ?
 なんで私に付いてきたの?
 何で目の色が青く見えるの?」

と、聞いたところで、当然返事なし。

「まあ、とにかく、食べ終わったなら出ていきなさい。ここは探偵事務所なのよ。猫は飼えないの。」

しかし、ソファーの上は知らん顔。

『猫の処理となると、保健所に連絡するか、保護施設に預けるか、になると思います。』

ケットの無情な提案。
保健所とか、保護施設だと可哀想な行く末しか見当たらん。

「それはな~、ちょっと可哀想だよね。」
『では、どうしますか? ここで働かせますか?』
「あはは、何言ってる…。」

のよ、と、続けようとした時。

黒猫がスタンと、ソファーから降りて私が座っていたデスクの前に来た。

「え?あんた、本気?」

——にゃ~。

短く鳴いた。

(ええええ~!)

働きたいらしい…。
マジか…。

『やる気はあるみたいですね。では、面接をお願いします。所長。』
「ケ、ケットさん?」
『夜は知奈の部屋に連れて帰ってくださいね。
 あのマンションは独身女性限定のマンションでペット可の物件ですから問題ありません。」

(嘘でしょ?)

なんか、話がどんどん進む。

『では、名前からですね。どうしますか?』

な、なまえ? 
ああ、名前か?

「ク、クロ。」

黒猫がプイッとそっぽを向く。

『気に入らないらしいですよ。さすがに単純すぎませんか?』

ケットの突っ込みがドスっと胸を貫いた。
単純、言うなっ!

「昔から猫の名前は”タマ”で、犬は”ポチ”って決まっているのよ!
 それよりは単純じゃないから!」
『それでクロでは、対して変わりません。』

うるさいなー!
ほんとに、このオカンAIめ!

「じゃあ、ケットが決めてよ。その名前がこの猫の気に入ればね!」
『…黒猫の名前ですか。そうですね。
 知奈にだけ青く見える瞳。
 死んだはずの白猫へ導いた猫。』

ケットは、一瞬沈黙した。
コンピュータの中で、何かを計算しているみたいだった。

『では、”プシー”はどうですか?』

そうして弾き出した候補名は、割と可愛い響きの名前だった。

「それ、どういう意味?」
『三叉の矛のようなギリシャ文字 ”Ψ” の読み方のひとつです。超心理学で超能力を表す記号でもあります。』
「超能力…。」

私は、ゾクリとした感覚が戻ってきた。

それは、あの雑木林で感じた感覚に近かった。
黒猫を追いかけていた時。
辺りの音が遠くに感じ、
何かに導かれる様に、異質な空間に入っていくような感じ。

——にゃーん。

黒猫の鳴き声で、ハッと我に返る。
黒猫が、私を見上げてくる。

——それで良い。

そんな風に言っているような気がする。

『気に入ったようですね。では、”プシー”と呼びましょう。』

何だか話は、所長である私の意向など無視されて進んでいた。

「えー、何か気味悪い名前じゃ…。」
『では、知奈、黒猫は当事務所のマスコットキャラクターとして看板になってもらいましょう。給与は衣食住ということで、キャットフードとトイレを購入してきてください。』

おいっ!
聞けよ!

猫の飼育方法、早速資料を作成し印刷してるよ。
というか、これ、全部私が面倒見ることになる話?

「いや、ケットさん?」
『まずは、依頼人に契約書と領収書を届けてきてください。事前にアポのメールをしておきます。その際に、白雪のぬいぐるみと、借りていた猫のケージの返還をお願いします。』

私はそこで、ハッと気がついた。
そうだった!

里奈さんの姉の形見でもある”ぬいぐるみ”と、白雪の使っていた”猫持ち運び用ケージ”を返すのを忘れていた。

「ああ…こりゃ、行かないと駄目だわね。」

私は頭を抱えて呟いた。

(次話へ続く)

illustration:Niji・journey

Act1.5 エピローグその2へ続く。 新たな出会いの扉が開く⋯?

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