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連載小説|第七回目|青い瞳は虚空を見つめる

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Act.1 青い瞳は地面を見つめる ⑦

※この物語は連載小説です。こちらは第七話となります。
前回 第六話はこちらから👉️【第六話:青い瞳は虚空を見つめる】
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   第三話はこちらから👉️【第三話:青い瞳は虚空を見つめる】
   第二話はこちらから👉️【第二話:青い瞳は虚空を見つめる】
   第一話はこちらから👉️【第一話:青い瞳は虚空を見つめる】

「⋯お姉様は、お気の毒でした。」

私は深々と頭を下げた。

「白雪のことも、ごめんなさい。」

まだ、と言いかけた時だ、里奈さんが口を開いた。

「いいえ、探偵さんのおかげで白雪も見つかりました。」
「?!」

え?と、
私は下げていた頭を振り仰いだ。

(今、なんて…?)

私は、後の言葉を続けようと口を開いた。

でも、それより早く里奈さんが言った。

「白雪は、姉と一緒に埋められていました。
 あいつが姉を埋めている時に、白雪が姿を現したそうです。」

姉を埋めている時、
じっと、見ている姿に気がついたそうです。

その姿が気味悪かったと。

責められているようで、怖かったと。

だから。

一緒に埋めた。…と。


(ん? んんん~?)

ナンテ?
いま、里奈さん何を言った?

(埋めた?)

私の頭の中を、大量のはてなマークが取り囲んだ。
はてなマークが手を繋いで踊りだす。

(ちょい待てやー!)

「あの…。」

私は何とか言葉にしようと頑張った。
でも、追い打ちをかけるように里奈さんが言った。

「姉の自宅の電話番号が分かったのも、白雪の首輪のおかげなんです。
 白雪の首輪には迷子防止用に名前と電話番号を刻んだプレートがついていました。
 それで、こんなに早く分かったんです。」

(あっれー?)

じゃあ、私が見たあの白い猫はなんだったんだ?
だって、あんな場所で地面から伸びていた被害者の手を舐めていたのよ?

「いや、あのですね。」
「あ、本当にごめんなさい。無駄足を踏ませてしまって。
 でも、探偵さんに依頼して本当に良かったと思っているんです。
 お姉ちゃんを見つけてくれて…。感謝しているんです。」

そう言うと、里奈さんはカバンから封筒を取り出した。

「これ、今回の報酬です。感謝の気持ちを込めて上乗せさせていただきました。」
(えっ♡)

私は報酬に上乗せという言葉を聞いて、つい色めき立ってしまった。

(いかん。いかん。)
コホン。と、咳払いをして、改めて言葉を続けた。

「いえ、仕事ですから、キチンと最初の取り決め額で…。」

「私の依頼でもっと大きな事件を解決してくれたんですから、是非受け取ってください。
 これ、私の親も知っています。
 お礼を伝えるよう頼まれました。」

里奈さんは、封筒をテーブルに置くと深々と頭を下げた。

少し肩が震えていた。
泣いているようだった。

「……。」

私は、何も言えなくなってしまった。

いや、助かるよ?
助かるんだけどね…。

ずっと、頭を下げている里奈さんに、かえって申し訳なく感じてしまう。

ここは、お言葉に甘える事にいたしましょう。

「あ、あの、では、お言葉に甘えて…。」
「ありがとうございます!」

ガバリと頭を上げて、里奈さんが私の手を両手で握ってきた。

「こんな名探偵に出会えて、本当に幸運でした。
 ペットの捜索なんて断られても仕方ないのに、親身になっていただいて…。」

友人にも、この事務所の宣伝をしておきます。

そういうと、目の端に涙を滲ませたまま微笑んだ。

illustration:Niji・journey

***

里奈さんは、これから葬儀の準備や、姉の荷物の引き取りなどで忙しくなるとぼやいてソファーから立ち上がった。

私も、席を立つと事務所の扉まで彼女を見送ることにした。

「大変だと思います。どうぞ無理をなさらないでくださいね。」

そう言って里奈さんを労い、ドアを開けたその時。

——スルリ。
何か黒いものが入ってきた。

「?」

一瞬、何が入ってきたのかわからなかった。
里奈さんが声を上げた。

「あら、さっきの猫さん。探偵さんの飼っている猫さんだったんですね?」

(は?)

私は、扉をすり抜け、今は誰も座っていない来客用のソファーの上で、自分の手を舐めている黒い猫を見つけた。
まるで、いつもここにいます。というようなリラックスした態度だ。

(あ!あの猫は!)

あの黒い姿、底が見えない深い青い瞳。

(公園で会った、あの猫だ!)

「あの猫ちゃん、私がこの事務所に入る時、ビルの入口の垣根の柵で昼寝していたんですよ。
 とても綺麗な毛並みだし、人を見ても逃げないから飼い猫だとは思っていました。」

里奈さんが、微笑みながら続けた。

「さすが、探偵さんの飼っている猫さんですね。賢そうな金の瞳。」

私は聞き間違えたのかと、里奈さんに顔を向けた。
里奈さん、今、なんて言った?

「金の瞳?」

「ええ、澄んだ綺麗な瞳をしていますね。
 白雪は薄い青い瞳でしたけど、金の瞳も神秘的です。」

背中に氷をポトリと落とされたような、ぞくぞくする寒気を感じた。

「え?え?青いですよね?」
「ええ、白雪は薄い青でした。じゃあ、私はこれで失礼します。
 本当にありがとうございました。」

里奈さんはぺこりと頭を下げると、黒猫に向かって小さく手を振り事務所から出ていった。

後に残された私は、
私は――

もう、色々、ちょっと…

頭が追いつかーん!

待て、待て、
なんだって?

「金?え、青だよね?どう見ても青だよね?」

私はソファーに堂々と寝そべっている猫の顔をじっと見た。

今も青に見える。

どうしてこれが金の瞳になるんだ?

「ケ、ケ…ケット!」
『ケケケットって、誰ですか?』

お前はっ!
今、そこを突っ込むのか!

「色、色、猫の目の色、何色?」
『数値上は反射光ですが……視覚的には、金色に近いですね。』
「い、今も…?」
『今もというか、現在進行形でカメラに写っている映像が、です。』

そして、追い打ちをかけてきた。

『ちなみに、昨日撮影したこの猫の写真の瞳も金、もしくは黄に近い色相と解析できます。
 モニターを確認してください。』

私は急いでデスクに回り込んだ。

パソコンのモニターに映し出された写真を確認する。

(いや、青にしか見えないって!)

どういうこと?

写真の瞳も、今、目の前にいるこの猫の瞳も、私には青にしか見えない。
でも、里奈さんも、AIのケットの解析も金の瞳だと言う。

そして何より…。

(白雪は死んでいた。)

私が昨日見た白い猫って、一体何だったの?
親戚?
白雪の親戚が近くにいたの?

(そんな馬鹿な…。)

私はすっかり頭を抱え込んでしまった。
机に突っ伏し、現状を整理しようとした。

が、
まったく頭が働かない。

その時。

——ガザガザ

来客用のソファーから、何かを漁る様な音がした。
見ると、ソファーの上に放り投げていた私のカバンの中に、頭を突っ込んでいる黒猫の姿が見えた。

「あ!こら、何してるのよ!」

私は急いで猫を捕まえようとした。

ところが、黒猫はスルリと身体をひねり、私の手をかわした。
そして口に加えた”ちゅ~るん”を、ポトリと、ソファに落とした。

(こ、こいつ…。)

”ちゅ~るん”に足をかけ、開けろと言うかのように、こちらを見つめる。

青い瞳で。

「な、何よ!なんで私が…。」

すると黒猫は、今度は来客用のテーブルの上に飛び乗った。

そして、机の上に置きっぱなしになっていた、里奈さんからの報酬金が入った袋に前足を乗せる。

そうして、
私を見上げるのだ。

——この報奨金は、誰のお陰だ?

青い瞳が、ニヤリと笑った。

…ような、気がした。

青い瞳は虚空を見つめる
Act.1 青い瞳は地面を見つめる ―完―

illustration:Niji・journey

Act1、完結しました。 次回、青い瞳は虚空を見つめる Act1.5 エピローグ公開予定です。

2026年3月2日 第八話(エピローグー1)を公開致しました。下記リンクよりどうぞ👇️

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