Act.1 青い瞳は地面を見つめる ⑦
※この物語は連載小説です。こちらは第七話となります。
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「⋯お姉様は、お気の毒でした。」
私は深々と頭を下げた。
「白雪のことも、ごめんなさい。」
まだ、と言いかけた時だ、里奈さんが口を開いた。
「いいえ、探偵さんのおかげで白雪も見つかりました。」
「?!」
え?と、
私は下げていた頭を振り仰いだ。
(今、なんて…?)
私は、後の言葉を続けようと口を開いた。
でも、それより早く里奈さんが言った。
「白雪は、姉と一緒に埋められていました。
あいつが姉を埋めている時に、白雪が姿を現したそうです。」
姉を埋めている時、
じっと、見ている姿に気がついたそうです。
その姿が気味悪かったと。
責められているようで、怖かったと。
だから。
一緒に埋めた。…と。
(ん? んんん~?)
ナンテ?
いま、里奈さん何を言った?
(埋めた?)
私の頭の中を、大量のはてなマークが取り囲んだ。
はてなマークが手を繋いで踊りだす。
(ちょい待てやー!)
「あの…。」
私は何とか言葉にしようと頑張った。
でも、追い打ちをかけるように里奈さんが言った。
「姉の自宅の電話番号が分かったのも、白雪の首輪のおかげなんです。
白雪の首輪には迷子防止用に名前と電話番号を刻んだプレートがついていました。
それで、こんなに早く分かったんです。」
(あっれー?)
じゃあ、私が見たあの白い猫はなんだったんだ?
だって、あんな場所で地面から伸びていた被害者の手を舐めていたのよ?
「いや、あのですね。」
「あ、本当にごめんなさい。無駄足を踏ませてしまって。
でも、探偵さんに依頼して本当に良かったと思っているんです。
お姉ちゃんを見つけてくれて…。感謝しているんです。」
そう言うと、里奈さんはカバンから封筒を取り出した。
「これ、今回の報酬です。感謝の気持ちを込めて上乗せさせていただきました。」
(えっ♡)
私は報酬に上乗せという言葉を聞いて、つい色めき立ってしまった。
(いかん。いかん。)
コホン。と、咳払いをして、改めて言葉を続けた。
「いえ、仕事ですから、キチンと最初の取り決め額で…。」
「私の依頼でもっと大きな事件を解決してくれたんですから、是非受け取ってください。
これ、私の親も知っています。
お礼を伝えるよう頼まれました。」
里奈さんは、封筒をテーブルに置くと深々と頭を下げた。
少し肩が震えていた。
泣いているようだった。
「……。」
私は、何も言えなくなってしまった。
いや、助かるよ?
助かるんだけどね…。
ずっと、頭を下げている里奈さんに、かえって申し訳なく感じてしまう。
ここは、お言葉に甘える事にいたしましょう。
「あ、あの、では、お言葉に甘えて…。」
「ありがとうございます!」
ガバリと頭を上げて、里奈さんが私の手を両手で握ってきた。
「こんな名探偵に出会えて、本当に幸運でした。
ペットの捜索なんて断られても仕方ないのに、親身になっていただいて…。」
友人にも、この事務所の宣伝をしておきます。
そういうと、目の端に涙を滲ませたまま微笑んだ。

***
里奈さんは、これから葬儀の準備や、姉の荷物の引き取りなどで忙しくなるとぼやいてソファーから立ち上がった。
私も、席を立つと事務所の扉まで彼女を見送ることにした。
「大変だと思います。どうぞ無理をなさらないでくださいね。」
そう言って里奈さんを労い、ドアを開けたその時。
——スルリ。
何か黒いものが入ってきた。
「?」
一瞬、何が入ってきたのかわからなかった。
里奈さんが声を上げた。
「あら、さっきの猫さん。探偵さんの飼っている猫さんだったんですね?」
(は?)
私は、扉をすり抜け、今は誰も座っていない来客用のソファーの上で、自分の手を舐めている黒い猫を見つけた。
まるで、いつもここにいます。というようなリラックスした態度だ。
(あ!あの猫は!)
あの黒い姿、底が見えない深い青い瞳。
(公園で会った、あの猫だ!)
「あの猫ちゃん、私がこの事務所に入る時、ビルの入口の垣根の柵で昼寝していたんですよ。
とても綺麗な毛並みだし、人を見ても逃げないから飼い猫だとは思っていました。」
里奈さんが、微笑みながら続けた。
「さすが、探偵さんの飼っている猫さんですね。賢そうな金の瞳。」
私は聞き間違えたのかと、里奈さんに顔を向けた。
里奈さん、今、なんて言った?
「金の瞳?」
「ええ、澄んだ綺麗な瞳をしていますね。
白雪は薄い青い瞳でしたけど、金の瞳も神秘的です。」
背中に氷をポトリと落とされたような、ぞくぞくする寒気を感じた。
「え?え?青いですよね?」
「ええ、白雪は薄い青でした。じゃあ、私はこれで失礼します。
本当にありがとうございました。」
里奈さんはぺこりと頭を下げると、黒猫に向かって小さく手を振り事務所から出ていった。
後に残された私は、
私は――
もう、色々、ちょっと…
頭が追いつかーん!
待て、待て、
なんだって?
「金?え、青だよね?どう見ても青だよね?」
私はソファーに堂々と寝そべっている猫の顔をじっと見た。
今も青に見える。
どうしてこれが金の瞳になるんだ?
「ケ、ケ…ケット!」
『ケケケットって、誰ですか?』
お前はっ!
今、そこを突っ込むのか!
「色、色、猫の目の色、何色?」
『数値上は反射光ですが……視覚的には、金色に近いですね。』
「い、今も…?」
『今もというか、現在進行形でカメラに写っている映像が、です。』
そして、追い打ちをかけてきた。
『ちなみに、昨日撮影したこの猫の写真の瞳も金、もしくは黄に近い色相と解析できます。
モニターを確認してください。』
私は急いでデスクに回り込んだ。
パソコンのモニターに映し出された写真を確認する。
(いや、青にしか見えないって!)
どういうこと?
写真の瞳も、今、目の前にいるこの猫の瞳も、私には青にしか見えない。
でも、里奈さんも、AIのケットの解析も金の瞳だと言う。
そして何より…。
(白雪は死んでいた。)
私が昨日見た白い猫って、一体何だったの?
親戚?
白雪の親戚が近くにいたの?
(そんな馬鹿な…。)
私はすっかり頭を抱え込んでしまった。
机に突っ伏し、現状を整理しようとした。
が、
まったく頭が働かない。
その時。
——ガザガザ
来客用のソファーから、何かを漁る様な音がした。
見ると、ソファーの上に放り投げていた私のカバンの中に、頭を突っ込んでいる黒猫の姿が見えた。
「あ!こら、何してるのよ!」
私は急いで猫を捕まえようとした。
ところが、黒猫はスルリと身体をひねり、私の手をかわした。
そして口に加えた”ちゅ~るん”を、ポトリと、ソファに落とした。
(こ、こいつ…。)
”ちゅ~るん”に足をかけ、開けろと言うかのように、こちらを見つめる。
青い瞳で。
「な、何よ!なんで私が…。」
すると黒猫は、今度は来客用のテーブルの上に飛び乗った。
そして、机の上に置きっぱなしになっていた、里奈さんからの報酬金が入った袋に前足を乗せる。
そうして、
私を見上げるのだ。
——この報奨金は、誰のお陰だ?
青い瞳が、ニヤリと笑った。
…ような、気がした。
青い瞳は虚空を見つめる
Act.1 青い瞳は地面を見つめる ―完―

Act1、完結しました。 次回、青い瞳は虚空を見つめる Act1.5 エピローグ公開予定です。
2026年3月2日 第八話(エピローグー1)を公開致しました。下記リンクよりどうぞ👇️

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