ミニ・ストーリー③

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“恋人とのChat”までもAIに任せ始めた男が、静かに転がり落ちていく続編

返信はAIに、お別れは彼女から Ⅱ

さて、俺には、
長年付き合ってきた彼女がいる。

以前の職場で同僚だった女性だ。

お互いSEだから、仕事のせいでなかなか会えない。

同じ職場の時は、顔を合わせる機会が多くそれでも良かったが、
別の職場になり休みが合わなくなると月に数回、下手すると、一度も会わずにいる時もある。

彼女もいい歳になってきた。
そのせいか、最近やたら思わせぶりなことを言ってくるようになった。

曰く、

「最近、冷たくない?新しい職場に好きな子でもできた?浮気?」
「親が心配してるのよね~。」
「女性には子供を産める限界の年齢があるのよ…。」

などなど。

暗に結婚を仄めかしているような言葉だ。
というか、結婚しろと言っているのだろう。

俺も判ってはいた。

このまま独身を貫くつもりはなかった。
いずれは…と、考えている。

平穏な老後を迎えるためにも世帯を持つ。
無難な人生設計だ。

それに、今更他の女と恋愛する気力もないし。

分かっているのに踏み切れないのは…

とにかく。
面倒。
それだけだ。

付き合いたての頃は、忙しい毎日の合間を縫って、二人で飲みに行ったりした。
同じ職場だから、愚痴や不満も盛り上がった。
夜を一緒に過ごし、朝、職場で何事もなかったかのように振る舞うのも、なんだかスリルがあって楽しかった。

若かったし、体力もあったからな。

でも俺は、本来面倒くさがりな性分。

今じゃ毎回、義務のように会う事も、
会えないときのチャットアプリの返答さえも面倒なんだ。

大体、座り仕事なんだ。
体力は落ちる一方だぜ。
30超えた辺りから、色々シンドいんだよ。
ほんと。

今日もプライベート用携帯電話に彼女から連絡が来ている。
既読マークが付いたら、すぐ返事しないとうるさいからな。
まだ見ていない。


(これ、返事AIに任せられないか?)

俺は横目で携帯電話を眺めながら、呟いた。

人間関係を円滑に回答するよう設計した今のAIアプリを利用して、
チャットアプリに干渉させる権限を持たせる。

そして、俺になりきり返信させる。

(どうかな?)

せめて毎日連絡してくる彼女限定にして対応させたら…


俺はムクムク湧き上がる好奇心に抗えなくなってきた。

出来そうな気がした。

ただ、内緒の作業だ。
多分、社内から許可をもらえない。

新しくチャットアプリを作るためならば、会社から許可も降りるだろう。
だが…。
それは利用者も同じアプリを使用しないと成り立たないし、時間がかかる。

俺自身は、幸い残業することも減って時間に余裕がある。

だから、既存のチャットアプリを“ブラウザ操作”でAIが代理入力する設定にしてみた。
APIは使えないから半分グレーなやり方だが、使うのは俺だけだし問題ないだろう。
それに、それなら手間もかからない。

条件は
「彼女の対応限定」
「人間関係を円滑にする回答」
「俺の負担を軽減すること」
である。



計画はうまく行った。
…かに見えた。

俺は恐る恐る、
彼女の反応を伺いながら、AIに返信をさせるようになった。

最初は毎日やりとりの内容を確認するようにしていた。

会えない日の言い訳。
寂しいとぼやく彼女を宥める回答。
結婚を仄めかす彼女に、それとなく将来を暗示させる返信。

さすが、大量の会話パターンを学習しているAIだ。
俺には考えつかない言い回しで、彼女の機嫌を取ってくれた。

おかげで月一度の逢瀬の時も、ご機嫌な彼女。

すぐにもプロポーズしてくれるんでしょう?と催促しているような目で見てくる。

(怖え~よ…。)

正直、彼女の熱量にドン引きしていた。

確かに、仄めかす返事を許している。

でも、そこまで必死になれるもんかね?
ー結婚ってやつに。

俺としては、正直もう少し時間が欲しかった。

転職したばかりだし、今のプロジェクトが成功すれば収入のアップも見込めるだろう…。

そう彼女に話して、
ある程度蓄えが出来たらを考えているんだ。
と、答えた。

彼女は少し不満そうな顔を見せた。

illustration:Midjourney

だが、貯蓄という現実的な内容に、すぐに笑顔に変わる。

ーーー確かに!一文無しじゃ結婚しても生活が成り立たないもんね。

そう言って、俺の腕に抱きついてきた。



家に帰ってから、AIアプリの調整をすることにした。

彼女からの連絡に回答する時、しばらく会えないと伝える設定にしたのだ。
仕事に専念してこのプロジェクトを完成させるためだという理由だ。

今日の話で、この仕事が上手く行けば出世の道が見えるかもしれないことを匂わせておいたらから、結婚するために頑張っているんだと思い込んでくれるだろう。

「ああ、面倒くさい…。」

俺は、その日、そのまま布団に入った。



何日かは、そのまま平穏な日が続いていた。

彼女からの定期的な連絡には、AIが対応してくれる。
今月はもう会わない予定だったから、AIが報告してくる内容も読み飛ばすようになってきた。

大体彼女の話の内容は、昔の職場の人間関係の愚痴が多い。
もう俺には関係ない人間だから、正直どうでもいい話だった。

しかし、AIは一生懸命話しを聞いている(フリ)をする。

それで満足してるなら何よりだ。
お互い平穏な関係が保たれるしな。

ところが、ある日突然、
彼女から緊急の呼び出しの連絡が入った。

続きはこちら👉️「返信はAIに、お別れは彼女から Ⅲ」

突然の彼女から呼び出し!AIの自動返信に何があったのか?!ズボラな主人公の末路が語られる最終話。

📘『返信はAIに、お別れは彼女から』シリーズ <全3話>

Ⅰ AIが導入された日 → 第一話はこちらから
Ⅱ AIが“彼女になりきる返信”を始める日 → このページ
Ⅲ AIが引き起こした“別れ”の真相 → 次の話はこちら(最終話)

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