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連載小説|第三回目|青い瞳は虚空を見つめる

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※この物語は連載小説です。こちらは第三話となります。
前回 第二話はこちらから👉️【第二話:青い瞳は虚空を見つめる】
   第一話はこちらから👉️【第一話:青い瞳は虚空を見つめる】

Act1. 青い瞳は地面を見つめる ③

本日、私は依頼者の自宅に来ていた。
依頼人、西野原里奈さん。年齢21才。都内大学に通う3年生。

彼女の部屋の窓から脱出したと思われる、彼女の姉の猫「白雪」を捜索するための第一日目の活動である。

期間を2日に絞っている以上、無駄な時間を使わせるわけにはいかない。
何の成果も挙げられなければ、私の仕事のメンツにも関わってくる。

私は里奈さんの予定に合わせ、午前中から自宅で現場検分をしていた。

日本家屋にある標準的な腰高窓。
ガラスのはめ込まれた窓枠の外側に網戸。
網戸の外は軽い出っ張りがあり、胸の高さまであるサッシの柵が付いていた。

窓の下はかなり高さがある。
猫でも落下すると命の危険があるだろう。

となると、この柵を乗り越えて横にあるベランダに飛び移ったのだろうか?

ベランダまで距離はあるが、飛び移れないほどではない。

私なら飛べる。
やらないが。

「里奈さん。このベランダの下にワンちゃんがいるんですか?」

私は犬が吠えなかったと聞いていたので、犬のいる方向に出たのではない、と考えた。
それなら、ベランダを経由してどの方角へ向かったかを調べられる。

「パムは、あ、犬の名前です。パムは裏庭にある犬小屋にいます。ベランダの下と言うより、ベランダを正面に見たときの右側にいます。」

里奈さんの部屋はベランダを挟んで犬のいる位置の反対側になる。

(うーむ。気配も感じず脱出したとなると、窓、柵、ベランダ、すぐ下、に抜けたか。足場は無さそうだけど…。)

私は、窓から柵に手を掛け下を覗き込んだ。

(ここからでは、わからないな。)

「すみません。白雪の写真と、お気に入りの物ってありますか?おもちゃとか、寝ていた布団とかでいいんですけど…。」

発見した時に、何か自分の匂いの付いたものを出せば、警戒心を解く助けになるかもしれない。
動物探し専門の社長が言っていた。

「あ、はい。白雪の寝床に入れていたぬいぐるみがあります。お姉ちゃんの手作りで白雪が寂しくないように持たせてくれました。」

写真はこれで、と、部屋に飾ってあった白雪のアップの写真を写真立てから抜き出して渡してくれた。

そして、白雪の寝床から白猫のぬいぐるみを取り出す。

どうやら、里奈さんのお姉さんが白雪を模して作ったようだ。
フカフカのタオル地で作られた触り心地の良いぬいぐるみだった。

「明日までお借りしたいのですが、よろしいですか?」
「はい、構いません。よろしくお願いします。」

私は頷くと、写真と人形を手に部屋を出た。

真っ白い長毛の猫の写真


***


『チラシの作成はしないのですか?』

里奈さんの自宅を出て、外からベランダを眺めていた私の耳に、携帯電話から音声が響いた。

「ケット。」

人工知能ケットは携帯電話経由で対話できるアプリに対応している。
現場で即、必要な情報の収集が可能なのだ。

おかげで食事の内容まで口を挟んでくる”おかん”でもあるが…。

「今回は時間が少ないからね。無駄な経費は掛けないよ。手がかりが見つかって続行になれば考える。」

探偵業務の場合、人探しの基本はビラの作成から始める。
街でよく見かける「探しています。」のビラだ。
これをインターネットカフェや、カプセルホテルなど、家出人が行きそうな場所に貼らせてもらう。

今回は猫だが、チラシがあったほうがいいのはわかっている。

だが、里奈さんは姉に知られる前に見つけたいようだ。

2駅離れているとはいえ、近所といえば近所になる。
ビラが貼られていたら姉に見つかる可能性が高い。

「まずは手がかりがないか、歩いて確かめる。探偵の基本は足だからね。」
『それは刑事の基本でしょう?』

ケットの突っ込み。
うるさいわ。

「探偵だってそうよ。似たようなもんよ。」
『それに、自分の匂いのするものに安心するっていうのも、猫ではあまり聞かないですよ?』

——それは、犬のことでしょう?

ケットの突っ込みは後を絶たない。
ええい、細かい奴め!

「よし!ケット、このぬいぐるみの匂いを辿って居場所を探すのよ!」
『いや、私にそんな機能はありませんから。』

お前なら出来る。きっと出来る。
即、突っ込みを返すこの性能があれば、犬機能も搭載されているに違いない。

私は、心の中で大きな確信を持つのだった。


***


私は里奈さんの家から、里奈さんの姉が住むマンションの方角へ歩いていた。

彼女の家のベランダから、どうやって下へ降りたのか、外から見てもわからなかった。
猫には猫の通り道があるのだろうか?
その辺は専門家に聞かないとわからない。

しかし、いないのは確かなのだ。

ならば。

——家に帰ったのでは?

と、考えた。

動物には帰巣本能があると聞いた。
特に、猫は家に付くと聞く。
もしかすると、帰ろうとしていたのかもしれない。

里奈さんの話では、いなくなったのは今から一週間前。

ちょうどその頃、姉の彩織さんからメールが届いたそうだ。

つわりが酷く、旦那さんの実家でお世話になっている。
と、いう連絡だったらしい。

なおさら、いなくなったことを打ち明けることができなくなった訳だ。

それならば、その頃「白雪」が元の家に帰ったとしても家には誰もいない。
家に入れず、近所をうろついている可能性がある。

と、私は考えた。

短い期間で闇雲に探すよりも、当たりをつけて捜索する事にしたのだ。

「まずはスーパーに寄らないと…。」

猫対策の強い味方。

”ちゅ~るん”をゲットしに行かねば。

この、”ちゅ~るん”は専門家も愛用している餌だ。

CMで、”猫まっしぐら!”と謳われるぐらい、ほとんどの猫が夢中になるらしい。
こいつで釣るのが確率の高い捕まえ方だ。

⋯たぶん。


***


白雪が住んでいたマンションは、再開発エリアとして土地の開発が盛んに行われている。
山を切り開いた場所に、いくつもの工事箇所が見受けられた。

あらかじめ聞いていた里奈さんのお姉さんのマンションを見つけた私は、その周辺を探ってみることにした。

二駅分を歩いてきた。

もう、夕方に近い時間だった。

陽が傾き、ぼんやりしたオレンジ色の空気が辺りを包んでいる。

2月の冷たい風に晒されて、”ちゅ~るん”片手にブロック塀の隙間や、空き地の草むらを何処となく探し回った。

確かに、都心。…といっても、郊外になるが…。猫自体が見当たらない。

動物がいないのだ。

見かけるのはカラスや、雀。鳥ばかり。

ただ、今の時期は寒いから、野良猫達は何処かに隠れて暖を取っているのかもしれない。

その時、小さな公園を見つけた。

マンションの側で、かなり細長い立地にある公園だった。

簡単な遊具と、ベンチ。小さな東屋があった。
その東屋の中に猫がいないか覗いた時だった。

後ろから何か視線のようなものを感じた。

私はふと、振り返った。

ここに来て、初めての猫を見つけた。

でも、それは、白雪とは似ても似つかない。
真逆の真っ黒な猫だった。

ただ、青い瞳は白雪と同じだった。

こちらの黒猫のほうが深い青をしているが…。

「黒猫か~。残念。」

私はがっくりと肩を落とした。

でも、この猫が何か手がかりを知っているかもしれない。

ここはケットに…。
『猫とは話せません。』

何故わかる。携帯を手にした途端言いやがったよ。

「な…何を言ってるのよ。写真を撮ろうとしたのよ。」
『……。』

ケットは何か言いたそうにしていたが、無言だった。よし。

「第一村人ならぬ、第一村猫だよ。かわいいね。こっち向いて。」

携帯を向けた。記念すべき第一猫ちゃん。
しかし、黒猫は冷めた目を向け、フイッとそっぽを向いてしまう。

気位が高そうな猫だった。

「綺麗な目をしてるね。黒猫に青い目って珍しくない?」
『?』

黒猫がこちらを向いた。

じっと私を見つめてくる。

私はカメラを向けて猫の写真を撮った。

「猫ちゃーん。”ちゅ~るん”食べる?」

私は細長いスティック状の包装の先端を契り、口を開けると黒猫に差し出した。

黒猫は最初、そのまま行ってしまいそうな素振りを見せていたが、何か考えを改めたようにソロソロと近づいてくる。

(うむ。さすが”ちゅ~るん”。まっしぐらね。)

私は”ちゅ~るん”効果に感心し、白雪もこれで捕獲できたらいいのになぁ…と、呑気なことを考えていた。

まさか、この後に大変な発見をすることになるなんて思いもせず。

公園のベンチに座っている黒猫の後ろ姿と「つづく」の文字

次回、黒猫との出会いが思わぬ方向へ進展。白雪の行方は如何に⋯?”ちゅ~るん”への突っ込みは聞かない。

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